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神戸地方裁判所姫路支部 昭和48年(ワ)310号 判決 1976年11月08日

原告

岡田道枝

ほか二名

被告

村野繁盛

ほか一名

主文

1  被告らは、原告らに対し、それぞれ各八九二万六七四〇円及び被告中村は右各金員に対する昭和四八年一〇月二五日以降、被告村野は右各金員に対する同月二八日以降、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨(原告ら)

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告らの請求はこれを棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外岡田勝利は次の交通事故(以下本件事故という)により死亡した。

(一) 発生時 昭和四八年一月一二日午前一時三〇分頃

(二) 発生地 兵庫県姫路市打越町一三五三番の一先国道(幅員八メートル)

(三) 態様 訴外岡田勝利が本件事故現場付近に故障駐車中の訴外勝田重行の自動車を牽引するため、同車の前方に駐車させていた右岡田の車両とロープで連結作業中のところ、被告中村正昭の運転する普通乗用自動車(ホンダ一二〇〇CC、姫路五な八九八〇)(以下被告車という)が右藤田の自動車後部に追突し、右岡田は、その衝撃で前方に突進した右藤田の自動車の下敷きとなつた。

(四) 結果 訴外岡田勝利は、内臓破裂により事故現場で即死した。

2  責任原因

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により発生した原告らの損害を賠償する責任がある。

(一) 被告中村正昭は、飲酒の上、最高速度違反(毎時六〇キロメートルのところを、毎時七〇キロメートルで進行)を犯し、前方不注意、徐行懈怠、右折及び回避不適当、ハンドル及びブレーキ操作不適当の各過失がある。よつて民法七〇九条の責任。

(二) 被告村野繁盛は、本件事故車の所有者であるから運行供用者として自賠法三条による責任。

3  損害

(一) 積極損害 小計四九万三一三〇円

(1) 遺体検死及び処置料 二万五四〇〇円

(2) 死亡診断書作成料 三〇〇〇円

(3) 遺体引取りのための車代 六〇〇〇円

(4) 葬儀代 二〇万四八〇〇円

(5) 葬儀用写真代 四〇〇〇円

(6) 仏具一揃 四七一〇円

(7) 礼服代 三万三〇〇〇円

(8) 文具 二五〇円

(9) 御布施 八万五〇〇〇円

(10) 遺体焼却場までの車代(往復) 八〇〇〇円

(11) 弔問客返礼用品代(タオル) 三万二〇〇〇円

(12) 接客費 三万四九七〇円

(13) その他(通信費、控室賃借料) 五万二〇〇〇円

(二) 訴外岡田勝利の逸失利益

(1) 勝利の事故当時の年齢 二七年六ケ月

(2) 当時の職業 青果物小売商

(3) 労働可能年数 三五年(このホフマン係数一九・九一七)

(4) 勝利自身の生活費 収入の三〇%

(5) 死亡当時の年収 二〇〇万円

従つて、勝利の逸失利益は二七八八万三八〇〇円となる。

(三) 慰藉料 五〇〇万円(原告ら各三分の一宛)

(四) 弁護士費用 二四〇万円(原告ら各三分の一負担)

以上合計三五七七万六九三〇円

4  原告らの相続

原告岡田道枝は右勝利の配偶者、同勝也及び秀樹は勝利の実子であり、原告らは、その相続人として、3(二)の金員を各三分の一の割合にて承継取得した。

5  損益相殺 五〇四万九二〇〇円

被告中村正昭より香奠として、訴外安田火災海上保険株式会社より自賠責保険金としてそれぞれ支払いを受けた合計金(各三分の一宛充当)

6  原告らは右損害金より右受領分を除いた三〇七二万七七三〇円の内金二六七八万〇二二〇円の三分の一である八九二万六七四〇円を各々請求することとする。

よつて、被告らは、原告らに対し、それぞれ各八九二万六七四〇円及び被告中村は右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四八年一〇月二五日以降、被告村野は同じく一〇月二八日以降、各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

二  請求原因に対する認否

1  被告中村

(一) 請求原因1(二)について、本件事故現場は進行方向左側への曲線道路でありしかも三叉路の直前で夜間は特に危険な場所である。

(二) 同2につき、酒気は帯びてはいたが、酩酊していた訳ではなく、正常な運転が出来ない状態ではなかつた。なお、被告中村は、相被告村野に当時土工人夫として雇われており、作業現場の食堂の戸棚の抽斗から同被告に無断でキーを持ち出して被告車を使用したものである。

2  被告村野

(一) 請求原因1は総て認める。

(二) 同2は否認。被告車は、被告村野の所有ではなく、当時、訴外日高建設株式会社(代表者日高某)から借用していたものである。又、被告中村は被告車を無断で持ち出し本件事故を起こしたものである。尚、被告車の登録名義人は訴外成田勇であり、被告村野は同人から譲り受けた事実もない。

(三) 同3は争う。

三  被告村野の仮定抗弁

仮に被告車が被告村野の所有であるとしても、2(二)のとおり、右車を被告中村が被告村野に無断で持ち出し、運転したものであるから、被告村野は運行供用者としての責任を負うものではない。

四  被告中村の抗弁(過失相殺)

二―(一)のとおりの道路の状況で、しかも深夜に故障車の排除作業をする場合には牽引車を利用すべきであり、それが困難であるときには、故障車の後方で、後方車のはつきりと確認できる位置で灯火による徐行の合図をする等の措置をとるべきであつたのに訴外岡田勝利らにはこれをとらなかつた過失がある。

五  被告らの抗弁に対する認否

被告村野の仮定抗弁及び被告中村の抗弁はいずれも否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項については、原告と被告村野との間では争いがなく、被告中村との間で同被告は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

二  被告らの責任

1  被告中村の責任

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるからいずれも真正な公文書と推定すべき甲第一号証(被告中村は成立を認める)、第九乃至第一二号証によれば、

(一)  被告中村は、昭和四八年一月一一日午後一〇時頃から、兵庫県宍粟郡安富町にある訴外西松建設株式会社の建設現場宿舎で同僚らと飲酒し、同被告は清酒二合とビール(大)一本を飲んだ。

(二)  被告中村は、翌一二日午前一時頃、所用で神戸へ行くため、被告車の助手席に同僚の訴外吉富隆成を同乗させて右宿舎を出発した。

(三)  被告車が南進して本件事故現場付近にさしかかつたところ、被告中村は、前方約七〇メートルの道路左側端に、訴外藤田の軽四輪車とその約五メートル前方に訴外岡田勝利の普通乗用車が停車し、両車の間に人が立つているのを発見した。

(四)  そこで被告中村は、それまで時速約七〇キロメートルで走行していたのを、右付近で約五〇キロメートルに減速し、右軽四輪車の右側を通過すべく進行し、右軽四輪車の約一八・七メートル前方に接近したとき、右(西)側の道路から車のライトがさしているように感じ、あわててハンドルを左に切り、急ブレーキをかけたが間にあわず軽四輪車に追突し、請求原因第1項(三)のような事故となつた。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実によれば、被告中村には、前方不注意ハンドル及びブレーキ操作不適当の過失があるといわざるを得ない。従つて、被告中村は民法七〇九条により不法行為者としての責任がある。

2  被告村野の責任

被告村野は被告車の所有者であることを否認し、又、仮りに所有者であるとしても、被告中村が被告車を被告村野に無断で持ち出して本件事故を起こしたものであるから、運行供用者としての責任はないと主張するので検討する。

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一七号証及び同号証により真正に成立したものと認める甲第一四号証並びに弁論の全趣旨によれば、被告車は元訴外成田勇の所有であつたが、昭和四八年一月八日、同人により被告村野に譲渡されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、被告村野は被告車の所有者と認めるのが相当である。

次に、被告村野の仮定抗弁について判断する。前記甲第一一及び第一二号証によれば、被告中村は、土木建設業を営む被告村野に雇われて前記工事現場の宿舎に住み込み、土方として稼働していたものであるが、事故直前に飲酒した挙げ句、神戸市内の友人の家に預けていた運転免許証を取りに行こうと思い立ち、所用を終えたら直ぐに帰還する積もりで、被告村野に無断で、以前から右工事現場に置いてあつた被告車を持ち出し、これを運転して本件事故を起こしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右に認定した被告村野と被告中村との身分関係、被告中村が被告車を乗り出した態様等に鑑みると、他に特段の事情の認められない本件においては、事故前に被告村野が被告車の運行支配および運行利益を喪失したと認めることはできないから、右抗弁は採用できない。従つて、被告村野は運行供用者としての責任を負うべきである。

3  被告中村の過失相殺の主張について

二―(一)乃至(四)の事実によれば、被告中村は約七〇メートル前方に軽四輪車や前記岡田勝利などを発見しており、しかも、前記甲第九号証によれば本件事故現場は片側一車線でその道路幅は約四メートルあり、右軽四輪車は道路左端に寄せてあつたので、被告車が注意さえすれば反対車線に進入しなくとも、右軽四輪車の横を通過することができる道路であり、ほぼ直線に南北に通ずる見通しのよい場所であることが認められるから、本件事故は前判示のような被告中村の一方的過失に基づくものであつて、仮りに右勝利に後方の車に注意を促がす義務があつたとしても、右を怠つたことと本件事故とは因果関係のないものと言うべきである。その他本件全証拠によるも右勝利らに過失を認めることはできない。

三  損害

1  積極損害について

原告岡田道枝本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第七号証、甲第八号証の一五、一六(被告中村は成立を認める)によれば、(一)遺体検死及び処置料として二万五四〇〇円、(二)死亡診断書作成料として三〇〇〇円、を支出したことが認められ、(三)右本人尋問の結果及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第八号証の一ないし二二(右一五、一六を除く)を綜合して認められる原告らの諸出費のうち被害者の年齢、境遇、職業等から見て葬儀費用にして被告らに負担せしむべき葬儀等費用を金三五万円を以て相当と判断する。原告らの積極損害は右(一)(二)(三)の合計三七万八四〇〇円ということになる。(各三分の一宛負担で各々一二万六一三三円―一円未満切り捨て―となる。)

2  訴外岡田勝利の逸失利益

原告岡田道枝本人尋問の結果、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第五号証、第六号証の一、二(被告中村は成立を認める)によれば、右勝利の死亡当時の年齢は二七年六ケ月、当時の職業は青果小売商で、その年収は二〇〇万円であることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。そして、右勝利の労働可能年数は三五年(このホフマン係数一九・九一七)、勝利自身の生活費は収入の三〇%とみるのが相当であるから、

(200万円×7/10×19.917=2788万3800円)

右勝利の逸失利益は二七八八万三八〇〇円となる。

3  慰藉料

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第五号証によれば、原告岡田道枝は右勝利の妻、同勝也及び同秀樹は右勝利の子であることが認められるところ、同人が死亡したことによる原告らの精神的損害を慰藉すべき額は、原告岡田道枝につき一六六万六六六六円、同勝也及び同秀樹につき各一六六万六六六七円と認めるのが相当である。

4  原告らの相続

3のとおり、原告らは右勝利の相続人であり、従つて、2の金員を各三分の一の割合にて承継取得した。

5  損害の填補

原告らが自賠責保険金及び被告中村の香奠の合計金五〇四万九二〇〇円の支払を受け、各三分の一宛充当したことは被告両名が明らかに争わないから自白したものとみなす。従つて、原告らは各々一六八万三〇六七円(一円未満切り上げ)支払を受けたこととなる。

6  弁護士費用

原告らが弁護士たる本件原告ら訴訟代理人に本訴の提起、追行を委任したことは記録上明らかである。そして、以上のとおり、原告らの損害賠償額が原告岡田道枝九四〇万四三三二円、同勝也及び同秀樹各九四〇万四三三三円であること及び本件訴訟の経過等を考慮すると、各五〇万円(合計一五〇万円)を本件事故と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

四  結論

以上によれば、被告らに対し、原告岡田道枝は九九〇万四三三二円、同勝也及び同秀樹はいずれも九九〇万四三三三円の損害賠償請求をそれぞれなしうるところ、本訴では原告らはいずれもその一部である八九二万六七四〇円を請求するにとどまるので、結局、被告らは各自、原告らに対し、それぞれ各八九二万六七四〇円及び被告中村は右各金員に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年一〇月二五日以降、被告村野は同じく同月二八日以降、各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるのは理由がある。

よつて、本訴請求は総て理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原勝市 三宅俊一郎 古川博)

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